国産の肉用鶏種「はりま」、「たつの」、
「地域の地鶏・銘柄鶏」等の普及について
独立行政法人家畜改良センター兵庫牧場 場長 山本洋一
1.これまでの経緯
(独)家畜改良センター兵庫牧場では、その前身である農林水産省「播磨種鶏場」(昭和3年)から一貫して国産の種(たね)鶏(どり)(国産鶏種)の育種改良、配布を行なってきた。その後、組織の変遷を重ねる中で、増体能力に優れた外国鶏種に対抗すべく「ノーリン501」等の鶏種を作出したが、外国鶏種との能力差が大きくほとんど普及が進まなかった。
こうした厳しい状況の中ではあったが、その間、牧場独自の鶏作り(劣勢白色鶏、有色鶏、軍鶏等の在来種に力点を置いた育種改良)を続けてきた結果、「種まで遡れる生産履歴のはっきりしたおいしい鶏肉」を求める運動を展開する生活クラブ生協等の関係者と出会い、平成13年に牧場で開発した「はりま」の生産が開始された。また、欧州での鳥インフルエンザ発生に伴う種鶏の輸入停止という事態に危機感をもった有色鶏(赤鶏)の生産者、流通業者から国産の有色鶏種が欲しいとの要望を受け、平成18年に開発した「たつの」の生産が開始された。(PDFファイルを参照)
また、県(畜産試験場等)及び家畜改良センターで開発された在来種、国産鶏種等を交配利用し作出される「地域の地鶏・銘柄鶏」についても、平成19年頃以降、各県等(一部民間含む)から個別具体的な要望を聞き取り、銘柄鶏作出のもととなる多種多様な育種素材鶏(在来種、劣勢白種、横斑プリマスロック種)を提供したり、飼養管理技術等の情報提供など、生産振興を側面からサポートする体制を強化した。
2.現在の状況
「はりま」、「たつの」については、現在、コマーシャル鶏で「はりま」は170万羽、「たつの」は300万羽程度まで普及拡大が図られている。
両者とも、生産から流通・消費にわたる関係者で構成する「はりま振興協議会」、「たつの振興協議会」が設立され、その中でお互いの情報をオープンにし、各種問題を検討し、問題解決を図るという取り組みを行なっている。例えば、生産が開始された当初は、国産鶏種特有の飼養管理方法が十分確立されていない、鶏種の能力に不十分な面がある等の課題を抱えていたが、各メンバーが交配利用する系統の入れ替え、飼育管理試験等の実施等に関する意見を出し合い、さまざまな試行錯誤を繰り返しながら成績向上を図ってきた。
また、「地域の地鶏・銘柄鶏」については、平成22年度において50銘柄、約730万羽程度の普及羽数となっているが、その中で、地域の在来種とともに兵庫牧場の鶏種を交配利用し銘柄鶏を作出する取り組み(一部、家畜改良センター岡崎牧場の鶏種を含む)が42銘柄を占めるまで拡大している。近年、地鶏生産の主体を担ってきた県組織が行政改革等の動きの中で弱体化する動きもみられることから、兵庫牧場等家畜改良センターのサポートを前提とした取り組みが更に拡大する傾向にある。
3.課題及び今後の展望
最近の状況としては、景気後退、消費者の低価格志向の影響もあり、一般的に通常のブロイラー鶏肉より価格が高めの銘柄鶏は厳しい状況にある。こうした中で、特に重要と考えられる課題をあげると以下のとおりである。
(1)更なる生産コストの低減
国産鶏種の個性(おいしさ等)は残しつつも、一層の生産コストの低減に取り組むことが重要である。「はりま」、「たつの」では、飼料の利用性の向上(無駄な飼料を増やさない)という観点から、生存性の向上に向けた改良が重要と考えられる。また、「地域の地鶏・銘柄鶏」では、生産性、採算性を度外視したような極端なこだわり品種の交配組み合せを行なっているケースも多く、生産性向上に向けた見直しを検討することも必要である。(具体的には、赤色コーニッシュ、劣性白色プリマスロック、大型軍鶏、更には岡崎牧場が保有する産卵性に優れた鶏種を交配利用を推進する等)
(兵庫牧場保有の品種・系統の能力等についてはPDFファイルを参照)
(2)国産鶏種の認知度の向上
現状においては、残念ながら、天然記念物や特定の在来種(比内鶏、名古屋種)の名称に比べて、国産鶏種という言葉に対する世間一般の認識は低い。現在、鶏生産の現場では、外国産由来の種(たね)鶏(どり)が国内生産のほとんどを占める中で品種や系統の寡占化が進行し、鶏は家畜の中でも極めて種の多様性が失われてきている状況にある。そのことが食料の安全保障の面でも問題を抱えている(種鶏の輸入停止等)。日本人の嗜好「おいしい鶏肉」にまっちした鶏種が必要である等、国産鶏種の意義を踏まえたPR方法の工夫が重要と考えられる。また、飼料米の給与等を行うことにより飼料の自給も絡めてPRすることも有効と考えられている。
以上の課題については簡単に解決できるものではないが、兵庫牧場更の有する資源(保有する鶏以外の施設、人材、予算等も含む)を余すとこなく徹底活用し、また関係者、民間機関との連携を更に強化し、出来る限りの対応をしていきたい。
将来的な夢としては、国産鶏種が「和牛」ブランドのような海外からも注目、更には輸出の引き合いも来るような「世界に誇れる多様な食材の一つとして確固たる地位を築く」ことである。海外の状況等(フランスにおける高級食材である鶏種や飼育方法にこだわった銘柄鶏の赤ラベル鶏)を見れば、その可能性は十分あると信じている。